往復書簡第10便 脱力、脱欲、リラックス

子どものしぐさはメッセージ
子どものしぐさはメッセージ

 北川さま

 

いやあ、すごいですよ。ミカエル師。

具体的にどのような身体操作をしているのかというテクニカルなことは分からなくても、その動きや在り方に力強さや美しさを感じることはできますからね。

 

ひとりの人間がふと太平洋に沈む夕陽を見つめたときに、その光景に心打たれて「すごい」という気持ちが湧き起こってきたとしたら、それはその人間の経験や知識や理解といったものを超えたところで、その自然の在り方佇まいに感応しているということでしょう。

 

ミカエル師の動きはたしかに凡人の理解を超えたところにあるので、読解しようと思ったらそれはそれは困難な道のりでしょうけれども、私は動きに現われていることだけを見ているので、ただ感じることを感じるばかりです。

 

なので、どのような身体操法が行なわれているのかは私にもよく分かりませんが、少なくともミカエル師の動きや佇まいに、私は「驕り」や「欲」というようなものはほとんど感じることができませんでした。それだけでも「ああ、この人はすごいな」と素直に思うのです。

 

私は強いとか弱いとかいうことにはあんまり興味が無くて、それよりも動きに現われている「その人」を見るのが好きでして、格闘家の動きは良くも悪くも「オレオレ」な動きであることが多いのですが、ミカエル師の動きはそういうものがほとんど脱けてしまっていたので、「ほぉ~」と見入ってしまったわけなのです。

 

妙な言い方かも知れませんが、その動きがいわば「自然現象」に近づいている。

単なる「自然現象」として存在できる人間はおそらくいませんが(昏睡状態ならそうですかね?)、けれどもいわゆる一流と呼ばれるような人間の所作の中にそれに近いものを感じることがあります。

「力みから脱けた状態」と言うんでしょうか。

それはシステマで言う「リラックス」というものに当たるんでしょうかね?

 

システマで「リラックス」という言葉に全人的な成長を込めているというのは、私も非常に納得できます。「力(パワー)」には腕力や脚力などの筋力のほかにも権力とか資金力とかさまざまなものがありますが、本質的にその意味するところは、「物事を思い通りにするためのエネルギーの強さ」ということです。

 

つまり「力(パワー)」があれば、100kgの岩だろうが、100mの壁だろうが、100人の美女だろうが、いわば自分の思い通りにすることができるわけですけど、それらは良くも悪くも「欲」であるのですよね。「こうしてやろう」「ああしてやろう」という欲。

 

その欲がむくむくと頭をもたげてきていて、それが抑制しきれずにからだにまで染み込んでいっている状態がいわば「力み」の状態なわけです。けれども欲なんて誰にだってあるわけで、むしろ無ければ生きていくことができません。だから欲があるのが悪いわけではない。欲に無自覚であるのが問題なのであって、それは無意識の「力み」につながってくるからです。

 

だから「脱力」とは、そういう「こうしてやろう」「ああしてやろう」という意図からの「脱欲」でもありますね。「普通の人間になる」というミカエル師の言葉もまさに言い得て妙です。

 

子どもの教育というところで、北川さんのおっしゃる「親が愉快に生きる」ということと、できるだけ「色々な人に会わせる」ということについては大賛成です。多様性というのは大事ですね。

 

あとは「アウトプット」ということ。これはまさに整体で言う「全生」ですね。

世間的にはどうしても「インプット」優先になってしまいますが、むしろどうやって「アウトプット」させるかということの方が、生物にとっては重要です。生物は放っておいたって自分に必要な「インプット」(食べ物、水、空気、情報)は、どんどん勝手に吸収していくんだから、むしろきちんとアウトプットさせなきゃいけない。これは実はやはり整体でもシュタイナー教育でも共通する点なんですよね。野口晴哉もシュタイナーも「排泄の方が大切なのです」というようなことを言っている。

 

今回、私の新しい本が出たのですが(上載画像)、その中では「子どものしぐさを全うする」ということを書いています。それは、子どものしぐさの中に漏れ出ている「動詞」をしっかりやり切らせてあげるということなのですが、それもやはりアウトプットをしっかりやっていって欲しいからです。

 

整体でもシュタイナー教育でもそうですが、「動きが形を作る」と考えれば、子どもの動詞を見つめていくことが大事だと思うんですよね。そしてその動詞をしっかりやり切らせてあげることで、要求を発散し、アウトプットを全うさせていく。

 

今度のコラボではそこからも何かワークをやってみようかと思っていますが、でも当日はどんな感じで進めましょうかね? ホントにもうすぐですから、ひょっとしたらこの書簡がコラボ企画前の最後の書簡になるかも知れませんね。いちおう今のところ私の方からは、いくつかの「ワーク」と「手当て遊び」をやってみようと思っていますが、とにかく親子のみなさんに精一杯楽しんでいってもらいましょう。

 

RYO